組織やチームを率いる立場にある人にとって、「どうすればメンバーが自発的に動いてくれるか」というのは永遠のテーマかもしれません。現代のリーダーシップ論においても、指示命令型ではなく、共感や信頼に基づいたリーダーシップが重視されています。
『 何を命令するかよりも、誰が命令するか 』。
二千年以上前の論語にも、この問いに対する示唆に富む言葉があります。
「其の身正しければ、令せずとも行う。其の身正しからざれば、令すとも行わず。」(子路第十三)
この格言は、リーダーのあり方、ひいては人の上に立つ者が持つべき姿勢について、非常に重要な教えを説いています。今回は、この格言を深く掘り下げ、現代社会におけるリーダーシップへの応用について考えていきましょう。
格言の解説:「其の身正しければ、令せずとも行う。其の身正しからざれば、令すとも行わず。」
この格言を直訳すると、「そのリーダー自身が正しければ、命令しなくても人々は行動する。そのリーダー自身が正しくなければ、命令しても人々は行動しない」となります。
ここでいう「正しい」とは、単に道徳的に正しいという意味合いだけではありません。リーダーとしての言動が一貫しているか、公平であるか、自ら率先して行動しているか、高い倫理観を持っているかなど、多岐にわたる要素を含んでいます。
つまり、リーダーが模範となる行動を示していれば、言葉で指示を出さなくても、部下やメンバーは自然とそれに倣い、組織の目標達成に向けて動くということです。逆に、リーダー自身が言行不一致であったり、私利私欲に走るような人物であれば、いくら正論を述べても、人々は心から納得せず、行動に移そうとはしないのです。
現代社会におけるリーダーシップへの応用
この論語の教えは、現代のビジネスシーンやチーム運営においても非常に重要な意味を持ちます。
- 言行一致の重要性: リーダーが掲げるビジョンや目標と、自身の行動が矛盾していては、メンバーの信頼を得ることはできません。「口だけ番長」では、誰もついてこないのです。
- 模範となる行動: 遅刻をしない、責任感を持って仕事に取り組む、常に学ぶ姿勢を見せるなど、リーダー自らが模範となる行動を示すことで、チーム全体の意識を高めることができます。
- 公平性と透明性: メンバーに対して公平な態度で接し、意思決定のプロセスを透明にすることで、組織への信頼感を生み出すことができます。
- 倫理観の高さ: 短期的な利益だけでなく、長期的な視点を持ち、社会的な責任を果たす姿勢は、メンバーの尊敬を集め、組織の持続的な成長に繋がります。
- 共感と傾聴: 一方的な指示ではなく、メンバーの意見に耳を傾け、共感を示すことで、心理的な安全性を高め、主体的な行動を引き出すことができます。
現代のリーダーシップは、単に指示を出すだけでなく、メンバー一人ひとりの能力を最大限に引き出し、チーム全体のパフォーマンスを向上させるためのものです。そのためには、リーダー自身が常に自己を磨き、「正しい」あり方を追求し続ける必要があるのです。
まとめ:リーダーの背中が語る力
論語のこの格言は、リーダーシップの本質は、言葉による指示だけでなく、リーダー自身の「あり方」そのものにあると教えてくれます。自らの行動を通して示すリーダーシップは、言葉以上に強い影響力を持ち、人々の心を動かし、組織を目標達成へと導く原動力となるでしょう。
今日から、私たち一人ひとりが、それぞれの立場で「其の身を正す」ことを意識し、周りの人々に良い影響を与えられる存在を目指してみてはいかがでしょうか。